セッションレポート「ポセイドンの野望」
これは角川スニーカー文庫から出版され、「ザ・スニーカー」誌上でも連載中の『トリニティ・ブラッド』の世界を舞台にして、TRPGを行ったセッションレポートです。 今回は、gene氏のＧＭにより「真・女神転生 誕生篇」のシステムを用いて行われました。舞台は聖歴659年頃（小説「R.A.M.」シリーズの少し前）、真人類帝国領内のアテナイ、ＰＣは小説の主人公たち国務聖省特務分室（Ax）の派遣執行官です。
【ＰＣ＆プレイヤー紹介】
“ノーフェイス”ハヴェル（DAWM）
貧しい出身で紆余曲折を経てAxのメンバーとなった不可視化迷彩を搭載した機械化歩兵である。「Ax最高の人材」と言われる人格者。今回は、温和ながらも激しい一面を持つという性格設定だった。
＃プレイヤーは、DAWM氏。若さゆえに時に大胆な行動をとる。
“ガンスリンガー”トレス・イクス（佐猫）
倫理的問題があるために破棄されたはずの機械化歩兵HCシリーズの生き残りの１人。脳以外の全身が機械化され、かなりの高性能を有する。口数が少ないと言われるが、必要なことは喋る。追加ソフトをインストールすることで多様な局面に対応できるらしい。
＃プレイヤーは、あらゆる意味で強者の佐猫嬢。彼女のおかげで、トレスが交渉にも活躍する饒舌なキャラとなった。
“クルースニク”アベル・ナイトロード（EN）
小説の主人公にして、謎の多い人物。体内にナノマシンを有し、発動すると恐ろしい姿に変身し、とんでもない力を発揮する。ただし、暴走の危険があるため、自身で嫌悪しているため、滅多に使用しない。変身前も拳銃の名手なのだが、今回のデータは弱かった・・・。
＃プレイヤーは、トリブラの大ファンであるEN嬢。旧知の佐猫嬢と名コンビだった・・・。
“ダンディライオン”レオン（藤林）
1000年の禁固刑で服役中の罪人。以前はヒスパニア王国陸軍に所属しており、爆発物とゲリラ戦のエキスパート。減刑のため、病気の愛娘のため、任務をこなす。大胆不敵なのか短慮なのか分からない行動が黒幕を困惑させることになった。
＃プレイヤーは、藤林。このサイトの作者である。
＃なお、ＧＭはgene氏。トリブラTRPGにプレイヤーとして参加した経験が豊富で、トリブラのTRPGにかけては日本で二番目である。
【登場人物：NPC（小説の登場人物）】
カテリーナ・スフォルツァ枢機卿：教皇庁国務聖省の長官、ＰＣたちの上司
シスター・ケイト：派遣執行官“アイアンメイデン”、飛行船の艦長、今回は後方で情報収集
【登場人物：NPC（オリジナル）】
アテナイ伯ミネルヴァ：真人類帝国の貴族、アテナイの領主
クリュサオル男爵：ポセイドン商会の長、アテナイのNo.2
アレス：黄金ローブをまとうアテナイ１２人衆の１人
エリス：クリュサオル男爵の館のメイド
パウロ大司教：ギリシア正教の聖職者、元哲学者
マッコイ：アレキサンドリアで不動産会社を営む、レオンの旧知
【ローマ：剣の館】
アベル・ナイトロード神父は国務聖省本庁舎“剣の館”のスフォルツァ枢機卿の執務室に呼び出された。そこには既に４人の先客がいた。彼らは国務聖省特務分室の派遣執行官たち。どうやら新たな任務らしい。 ５人も揃えた容易ならぬ事態に、レオン・ガルシアは思わず「戦争でもおっぱじめる気か!?」と呟く。
スフォルツァ枢機卿は表情を変えずに「最悪の事態の場合はそうなるでしょうね。」と言う。そして任務の内容が説明される。 真人類帝国領内アテナイで困った事態が生じた。ローマ法王庁に対抗したギリシア正教という宗教が起こったのだ。それを聞けば異端審問局は黙ってはいないだろう。幸いにも、まだその様子はない。しかし、ローマに客分として居る過激派マルタ騎士団が動き出している。「ギリシア正教に天誅をくらわす」と言って、行方をくらませたらしい。一応にも、ローマ法王庁に籍を置く者が真人類帝国内で騒動を起こせば、外交問題に発展する。カテリーナ・スフォルツァ枢機卿は、極秘裏に事態を解決することを望んだ。
「アテナイへ潜入し、ジェラール神父らマルタ騎士団を確保。同時に、ギリシア正教についても調査すること。」を５人に命じた。彼らに拒否という選択肢はない。
ただ、レオンは「で、今度の任務は何年だ？」と質問した。
「成功すれば、200年」という返事に、事件の容易ならぬ規模を思い知る。
＃ちなみに、ネバーランド事件（文庫「サイレント・ノイズ」に収録）での減刑は20年だった。
シスター・ケイトが詳細説明を引き継ぐ。国務聖省がギリシア正教の存在を知ったのは約１カ月前。そして、マルタ騎士団が行方をくらませたのは３日前。その情報入手ルートおよび背後関係は現在調査中。一刻も早く追いついて、できれば先回りしてマルタ騎士団の身柄を押さえるのが最優先だと考えた４人は飛行戦艦アイアンメイデンでアレキサンドリアまで向かい、そこから海路でアテナイを目指すことになった。
【アレキサンドリアからアテナイへ】
アレキサンドリアに到着したレオンは、アテナイ潜入のルートを求めて旧知のマッコイ爺さんを訪ねた。マッコイ不動産会社という看板を掲げているが、その実は、名うての調達屋である。密貿易船イエローホーク号を紹介してもらい、ついでに、隠し倉庫から爆弾やスタングレネードなどを調達する。アベルらは港周辺でジェラールの足取りを調査し、３日前の目撃情報を得る。船員として密貿易船イエローホーク号に乗り込み、アテナイへ向かう。お約束で、アベルは船酔い（笑）
帝国領内に入る前に、各人の言語能力を確認しておく。
アベルは、謎の設定により、帝国語を流ちょうに喋れる。
トレスは、言語ソフトをインストールすることで通常会話可能。
ハヴェルは、異端審問官時代に教養として習得済み。
レオンは・・・、軍人時代に元帝国市民の傭兵と知り合ったという設定を急遽でっちあげて、日常会話レベルは出来ることに。
＃他の３人はノーチェック。１人だけ知性チェック（冷や汗）
アテナイのビレウス港に着く直前に、サラミス海軍の臨検を受ける。名目上は帝国領内の別の港からアテナイへ向かう美術品貿易船ということになっていたので、それで通してもらおうとする。いつもの臨検は形式的なものだったはずが、今回は様子が違う。黄金ローブと兜を身につけた貴族が指揮している。彼はアテナイ１２人衆のアレス。その部下たちによって、美術品として持ち込んだ聖母マリア像が問題視された。やばい雰囲気だったが、部下が何事か耳うちし、アレスたちサラミス海軍は引き上げた。イエローホーク号乗組員たちが安心したのも束の間、軍艦の主砲がこっちを狙っていることに気付く。船員たちやＰＣたちは一瞬早く海に飛び込むも、船は木っ端微塵に。派遣執行官たちも離ればなれになってしまった・・・・。
【ポセイドン商会１】
レオンは見知らぬ部屋で目覚めた。メイド服の若い女性が部屋にやって来て言うには、スニオン岬の浜辺に漂着していたところを助けられて、貴族であるクリュサオル男爵の屋敷に運び込まれたらしい。裏の世界に詳しいレオンは、クリュサオル男爵が武器の密貿易で稼いでいるポセイドン商会の主だと気付いた。さらにエリスからアテナイのことを聞き出す。黄金ローブの男は、アテナイ１２人衆と呼ばれるアテナイ伯の側近の戦士で、いずれも実力の高い長生種である。この状況をどうすべきか考えながら、暖かいベッドで少し休息する。エリスが立ち去った後で装備品を確認すると、ほとんどを海中で失っていた。腕輪に偽装したチャクラムしか残ってない。どこかで装備を調達しなければ・・・。
【サラミス海軍】
巡洋艦からの砲撃をくらって、ハヴェルはフロート機能を損傷した。あわや沈みかけたところをサラミス海軍に拾い上げられ、そのまま捕虜となった。サラミス島の海軍基地に連行され、尋問を受ける。密輸の事実を白状し、鎖を架けられ牢獄に捕らえられる。だが、ここからが“ノーフェイス”の本領発揮。まずは不可視化迷彩で姿を隠し、牢屋から居なくなったふりをする。捕虜が逃げたと思い込んで、見張りが扉を開けたところを不意討ちして気絶させる。鍵を奪って鎖を外し、さらに軍服も奪って着替えて逃走する。基地を出る前にアレスと遭遇したが運良く気付かれずに捜索隊に紛れた。捜索するフリをしたままボートに乗り込み、なんとかアテナイへ辿り着く。だが、海軍と騒動を起こし、手配されてしまったために、今後の行動が取りにくくなってしまった・・・。
【ギリシア正教】
イエローホーク号の船員の一部はぎりぎりのタイミングで救命ボートで脱出していた。アベルとトレスは、救命ボートを見つけて合流する。アテナイ側のビレウス港近くの海岸に漕ぎ着け、そこで船員たちと分かれてビレウス市街へ向かう。どうやら、逃亡犯の捜索が始まっているらしい。びしょ濡れの船員服のままでは、いずれ見つかった時に言い逃れできないと思い、潜伏できる場所を探していた。そうして彷徨っていると、黒い僧服の老人と出会う。温和な姿に、敵ではないと判断して導かれるまま教会へついて行く。老人は、ギリシア正教のパウロ司教で「平和の教えを広めている者」と自己紹介する。困っている者を見捨てておけないと、食事まで提供してくれた。トレスは「不要だ」と断ろうとするが、アベルはかまわず２人前を平らげてしまった。さらに、着替えを要求する２人に対して、嫌な顔ひとつせずに僧服と十字架を貸し与える。素人とは思えない着こなしに、パウロ司教が感心すると、２人は苦笑するしかなかった。
さらに、ギリシア正教について聞けるだけの情報を聞き出す。約１年前にアテナイの北にあるアトス遺跡で古い書物が発見された。哲学者だったパウロたちが興味を持って研究し、アテナイ伯の承認を得てギリシア正教が興ったということだ。現在の規模は、信者１００人程度で、アテナイ市内の中心部に聖堂があり、他の地域にも教会がいくつかある。
ギリシア正教の情報を得て、次はマルタ騎士団の足取りを捜索するために司教と分かれた。ビレウス市街を捜索していると、建設中の地下道を発見する。ビレウスとアテナイを結ぶ高速地下道と書いてあるが、潮の香りがするのを不審に感じる。様子を探っているうちにビレウス市街の方で爆発音を聞く。地下道探索は後回しにして、爆発音のした方へ戻ってみると、先ほどの教会が爆破されていた。既に海軍や警察が動いている。アレスの手によって、ハヴェルの手配書がまわっているらしい。
混乱の続くビレウスの路地裏で、アベルとトレスはハヴェルと合流した。盗んだ軍服をいつまでも着ていてはまずいので、とりあえず船員服に着替えさせた。そして先ほど見つけた地下道に潜伏した。なお、レオンとは無線連絡がつながらないままだった。
【ポセイドン商会２】
屋敷で休んでいたレオンは、クリュサオル男爵が帰ってきたようすを聞く。どうやら、主人の留守中に不審な男を屋敷に入れたことでエリスを怒っているようだった。レオンは、それを聞いて黙っていられない。階下へ降りていき、クリュサオルに直接会って「不審者と言うなら縄につく、どこへでも連れて行け、遭難者を助けただけの女に罪はない。」と言う。クリュサオルは手下の者に、捕縛の準備をさせる。ところが、密貿易船の船員だと看過したクリュサオルの眼力を「同業者の大物」とレオンが指摘すると、態度が変わった。クリュサオルはじっくり話がしたいと食事まで準備させる。「毒など入っていない」と貴族の余裕を見せつける。小細工は通用しない相手と考え、レオンは唯二つのことを除いて目的と素性を洗いざらい喋る。ギリシア正教を狙うテロリスト（マルタ騎士団）のこと、密貿易船イエローホーク号のこと、外交問題を火種のうちに消したいこと、など。ヒスパニア王国海軍所属という話に、クリュサオルは世俗諸侯がどういう利害関係があるか怪しむが、深く追求しなかった。しかも「長生種と人間との間に争いがあれば、貿易業がやりにくくなる」という理由で、レオンに協力を申し出る。思いがけない成り行きを疑いながらも、利用できるものは何でも使う。相手は武器密輸も行うポセイドン商会である。その倉庫から、海で失った装備の代わりを十分に調達できた。士民服だけでなく、さらにポセイドン商会の社員証まで用意された。至れり尽くせりの協力に不審の思いもあるが、トラックを借りてアテナイ市街へと向かう。仲間たちは服一着の調達にさえ苦労しているのでないかと推測しながら無線交信を試みるが、失敗（タイミング悪く、彼らは地下にいた）。そのまま単独で行動する。まさか最後まで合流できないとは、このとき知る由もなかった。
【ハヴェル VS アレス 第１R】
手配書のために自由に動けないハヴェルは地下道を探索する。奥へと進んでいくと、途中で枝道が分かれていた。潮の香りはその先から匂ってきていた。作業しているのはポセイドン建設（ポセイドン商会の系列会社）の作業員。ハヴェルは組織の知識がないので、あとで仲間に照会することにする。この作業を指揮していたのは意外な人物だった。何度も苦汁を飲まされた黄金ローブの男、アレスだ。部下を連れていない今が千載一遇のチャンスとばかりに、ハヴェルは不可視化迷彩で身を隠し、アレスを狙う。一段落ついて帰ろうとするところを奇襲するが、一撃で倒せず、接近戦になる。黄金ローブの１２人衆の肩書きは伊達ではない。加速状態での高速拳に苦戦し、徐々に負傷していくハヴェル。１対１では勝機が見いだせないと悟って、摺り蹴りで転ばせる。瞬転、逃亡に転じて九死に一生を得た。
＃命運１０点を使い切って、ようやく逃亡できた。
【ギリシア正教２】
トレスとアベルは、ビレウス市街で調査を進める。だが、爆破犯人もマルタ騎士団も見つからない。教会跡付近でパウロ司教に再会したので、入信したフリをして潜入調査をしようと近付く。ギリシア正教への入信の旨に快諾し、パウロ司教のコネでアテナイ伯との会見の機会が翌日に設けられることになった。
【アテナイの大聖堂】
レオンはアテナイ市街の貴族居住区にある大聖堂に近付いていた。この地域への立ち入りは制限されているはずだが、ポセイドン商会の身分証を見せると、あっさり許可証が発行された。警備の甘さにあきれるレオン。大聖堂の警備兵にテロリストのことを警戒するよう連絡する。演技力がないうえに肉食獣を思わせる危険な風貌では逆効果。不審人物と怪しまれ、警備詰め所へ連行される。ポセイドン商会の社員証を見せると、警備隊長はクリュサオル男爵に連絡をとるが、「そのような社員はいない」と見捨てられて、捕縛されそうになる。ドジ踏んだと確信したレオンは、スタングレネードを使う。ポセイドン商会の装備品に感謝しながら、一瞬のスキに脱出。アテナイ市街に潜伏する。
【迷走】
ハヴェルから地下道のことを聞いたアベルは、古代の伝説に「２人の権力者が争ったときに、アクロポリスを海から攻撃した」というような話があるのを思い出した。地下道の枝道建設はアクロポリスを狙う者の陰謀にちがいない。 また、アレキサンドリアやローマで情報収集していたシスター・ケイトからも連絡があった。マルタ騎士団の背後関係だが、入国の手引きしたのはポセイドン商会だということ。ギリシア正教の情報もそこからもたらされたらしい。マルタ騎士団の関係から異端審問局が事態に気付く可能性が減って一安心。ようやく事件の概要は見えてきたが、マルタ騎士団の行方がつかめないのも悩みの種だった。
【ポセイドン商会３】
潜伏していたレオンは、ポセイドン商会の工作員に発見されて、スニオン岬の屋敷へ送り返された。重要参考人として手配された以上、任務は失敗とクリュサオル男爵に宣告される。帰国の算段をつけてくれるという申し出を受ける。そして代わりに、仲間を支援しようとまで言う。だが、レオンは「やつらは有能だから支援は必要ない。」ときっぱり断る。自分は失敗したが、後は仲間がうまくやってくれるだろうと信頼していた。
そのころ、ラジオ放送でアテナイ伯ミネルヴァの声が流れ、テロリストへの注意と平和の願いが訴えられる。エリスは「どうして争いが無くならないのか」とレオンに問う。権力者の都合による戦いは、政権交代でも無いとなくならない。軍人として戦場を渡り歩いた経験からは、政治家への批判のような言葉しか出ない。
【アテナイ伯】
翌日、真人類帝国領内の時間感覚は外部の人間には馴染みにくいのだが、とりあえず翌日のこと。トレスとアベルは、アクロポリスの山頂でアテナイ伯と会見する。古風な神殿が建ち並ぶ最奥に、白い服をまとって兜と付けた神々しいような姿のアテナイ伯ミネルヴァが待っていた。トレスは、地下道の件からポセイドン商会の企みを告訴し、ハヴェルの無実を訴える。だが物的証拠がない。思うところがあるからか、アテナイ伯は１日だけ猶予を与える。その間に、証拠を集めろと言うことだ。そこで会見はいったん打ち切られた。
３人が地下道の奥へ向かうと、枝道の工事は完成し、地底湖（海）へと続いていた。その手前には多数の死体・・・。作業員たちが殺されていた。トレスは唯一の生存者を見つけ、アレスの仕業と聞く。地底湖ではサラミス海軍の軍艦がミサイル発射準備をしていた。しかも、指揮官は仇敵アレスである。ここは位置的にアクロポリスの下あたり。発射されれば、アクロポリス一帯が危ない。阻止するには距離も離れている、普通なら攻撃しても効果はない。しかし、派遣執行官は普通の人間ではない。“ガンスリンガー”トレスが狙撃し、肩を負傷したアレスは海面下へ落下した。指揮官が倒れて、時間が稼げた。
ここで、瀕死の作業員の命が長く持たないと判断し、二手に分かれることにする。作業員を地上へ連れていくアベルとトレス。一方、ハヴェルはミサイルの後始末をするためボートに乗って軍艦に向かう。だが、海中から現れた手がボートをがしっと掴む。アレスは死んでいなかった。
ハヴェルは長生種アレス相手に苦戦していた。手刀の連撃でかなりの手傷を負わせたものの、あと一歩およばず力尽きて海中に落ちていく。
作業員をトレス１人に任せ、異変を察知したアベルが地底湖に戻って来た。
「ナノマシン“クルースニク02” 40％限定起動−承認！」
蝙蝠の如き翼を生やしたアベルは海面上を飛翔し、アレスに接近。大鎌を一閃させてトドメをさした。海中からハヴェルを救出し、ミサイルも無力化させる。
アテナイ伯はトレスが連れて来た証人を確認し、決断をくだした。 クリュサオル男爵の陰謀を認め、１２人衆（アレスを除く）を派遣した。
【ポセイドン商会４】
レオンは屋敷で軟禁状態の時間を過ごしていた。そんなところをエリスに呼び出され、クリュサオル男爵の待つ地下室へ行く。なぜ今回に限って地下室なのだろう？ 疑惑を持つとエリスの様子さえいつもと違うように見えてきた。万一のために屋敷に発煙筒を仕掛けておく。地下の奥にある分厚い鉄扉を開くと、暗闇のなかにクリュサオル男爵が待っていた。そしておびただしい数の死臭。レオンは完全な失敗を悟った。人間の死体、多数の。つまりは、尋ね人は既に死人。この世にいない奴らを探しても見つかるはずはない。
クリュサオル男爵は、思惑通りに踊らなかったレオンに腹を立てて、始末すると言う。次の瞬間、無警戒だったエリスがレオンを背後から刺した。致命傷ではないが、かなりの重傷。しかも暗い地下室での２対１では勝算なし。ここぞとばかりに、発煙筒を作動させる。煙に反応して屋敷じゅうの消火設備が作動し、そちらに気を取られるクリュサオル。瞬転、レオンは部屋から出て分厚い鉄扉を閉める。地上へと走り、地下への階段を爆破して埋める。
少し時間を稼いだ間に重要書類を探そうとするが、階段の方で破壊音がするのを聞いて危険を察知し、駐車場へ急ぐレオン。とりあえず、仲間との無線が通じるエリアまで脱出しないと、１対１では勝ち目がない。だが、駐車場を出たところで、ボンネット上に黒い影が飛び乗った。急停止し、自動車に爆弾を仕掛けて飛び降りる。加速状態の長生種から逃げ切れるはずもなく、怒りに我を忘れたクリュサオルが血を吸おうとレオンを地面に押し倒す。男に押し倒される趣味はない。爆破リモコンのスイッチを押し、自動車が吹き飛ぶ。大量の破片をくらってクリュサオルがひるむ。今のうちに、とレオンは逃亡するが、傷だらけのクリュサオルは悪鬼の如く迫り来る。
そこへ１１人の黄金ローブの男たちが現れた。アテナイ伯の遣わした彼らはクリュサオル男爵を拘束し、クーデターは未遂に終わった。レオンは彼らが敵ではないと判断して、地下室の死体のことを報告した。そのまま振り返らずにアテナイにいる仲間たちと合流する。 アテナイ伯ミネルヴァは、今後の争いの火種となると判断して、ギリシア正教を廃止することをアベルたちに約束した。そして、４人の派遣執行官たちはローマへ帰っていた。彼らの迷走と活躍によってギリシアの危機は脱した。
ところで、地下室に消えたエリスはどうしたのだろうか。 彼女の行方は誰も知らない。その素性、目的を知る者もいない。