★魔界都市“京都”の成立

　１９９Ｘ年、大破壊を事前に予知した政府は首都機能を畿央地域へ移転する計画を極秘裏に進めていた。その首都移転に際して、皇居も元来の京都へ移されることとなり、皇族たちは新幹線の特別御用列車で京都へ移動した。名実ともに、京都御所に戻られたのだった。

　その頃から悪魔が世界各地に現れるようになった。悪魔の存在を知り、悪魔と手を組んだ自衛隊ゴトウ一等陸佐が起こしたクーデターに対し、米大使トールマンは強硬手段に出た。ICBMのボタンを押したのだ。そして東京は壊滅した。後に、この事件は「大破壊」と呼ばれるようになる。だが、これは単なる破壊災害ではない。この裏には魔王・魔神級の悪魔たちが介入しており、破壊は次元震動を誘発し、複数の世界観に分岐していった。大破壊後の世界、大破壊の起きなかった世界、そしてガイア教団の世界再生計画「東京受胎」によって生まれた球体内部の世界「ボルテクス界」へと。

　東京以外の世界も無事では済まなかった。トールマンの放ったICBMは一つだけではなく、京都も攻撃目標だった。だが、ICBMが京都上空で爆発しようとした瞬間、対抗するかのように京都御所から光の柱が立ち上った。光の御柱に包まれてICBMは爆発前に消滅した。人々はその威光に畏怖を感じたが、すぐに異常事態、新たな危機に気づいた。その光は拡散していき霧状となって京都市全域を覆った。霧の海に閉ざされた京都市は、その後三週間に渡って外界と隔絶された。謎の霧は電波やセンサ−を通さないだけでなく、有線通信すら途絶えていた。霧が京都を覆っていた三週間、京都市内の様子を外から知ることは一切出来なかった。衛星写真でも分厚い雲に覆われたような映像が撮れるのみであった。

　霧が晴れたとき、京都市の総人口の半数が失われていた。生き残った人間たちも次々に市外へ避難し、最終的に京都市の人口は十分の一程度まで減ってしまった。いや、本当の人間はもっと少なかったかもしれない。避難民の話によれば、霧に覆われた間に謎の疫病（魔界風邪）の流行、凶悪な悪魔たちの跋扈、怪異現象の発生などが起きていたらしい。大破壊後で日本各地が混乱する状況でありながら、畿央政府は京都の復旧と避難民の保護に力を尽くした。

　だが、御所周辺は濃い瘴気で立ち入り不能であり、皇族に関しては絶望視された。預言者が現れ、京都市の異界化を警告するに至って、政府関係者は京都市から撤退した。霧が晴れてから四週間が経過した日、京都市は再び霧の海に包まれた。この霧が二度と晴れることはなかった。そして・・・