第３話「総統・闘争」

＄オープニング
■不発の拳銃とフラグと
　オーストリアの深い森の中……ヨハン・イザークは一人で研究を続けていた。1943年のある日、一人の女性が隠れ家を訪ねてくる。その女性はメイベル・ハイゼンベルクであった。兄の仇ヨハンに拳銃を突きつけるメイベル。彼は返す言葉もなく沈黙している。メイベルは拳銃の引き金を引いたが、はたしてその銃は空砲であった。ヨハンの無責任を罵ったあと、メイベルは去っていった。

■総統が逃走した
　ベルリンが陥落し連合国の戦勝がほぼ確定した1945年6月、イギリス情報局、通称MI6は厳戒態勢にあった。ヒトラーが所持していたというニーベルングの指輪が発見されなかったのだ。親衛隊の側近も行方をくらましている。ヒトラー本人が秘密裏にベルリンを脱出した可能性が高かった。アリシア・ロックフィールドにヒトラー追討の任が下る。

■ディプロマシー
　御子柴文彦は、日本の外交官として多忙な日々を送っていた。年月の中で文彦は結婚し、子供も生まれていた。日本の講和交渉が暗礁に乗り上げるなか、御子柴文彦は米国からの直々の会議の招待を受け取る。さっそく御子柴文彦は会議の地ギリシャへと旅立った。しかし米国の狙いは、魔術事件を解決してきた実績のある御子柴にヒトラー追討に参加させることにあった。まだ本格的な空襲を受けていない京都の安全をカードとして提示するアメリカの外交官。アメリカ合衆国とイギリスの外交力の前に是非もなく、御子柴の参加が決定した。
■妹が傑作なら兄は最高傑作
　フラウ・オクセンフェルトは、ドイツ敗戦の報を聞き祖国へ帰還した。焼け野原になったベルリンに、幸運にも彼女の家は焼け残っていた。両親との再会を果たしたフラウだったが、しかし兄ハンス・オクセンフェルトが未だ帰らないことを知る。そんな中、アーネンエルベ長官ウォルフラム・フォン・ジーバスがフラウに接触してきた。ジーバスはナチスに見切りをつけ、自由の身になったのだと笑う。ハンスが妹フラウと同じく超人兵士となったこと、今もヒトラーに付き従い親衛隊として活動していることを伝えてフラウを炊きつけ、追い付きたくばMI6に接触しろとささやき、ジーバスはベルリンの街に消えていった。フラウは兄を取り戻すべく、アリシアと合流して討伐隊に加わった。

＄ミドルフェイズ
■魔術師の死
　ヨハン・イザークはオーストリアに、テクノイオンはスイスに、戦火から逃れて隠れ住んでいた。ドイツの敗戦が近づいたある日、２人はハインリヒ・イザークからの手紙を受け取る。彼らがハインリヒの下を訪れたとき、すでにハインリヒは重い病の床にあった。弱った老人の口から２人に伝えられたのは、恐るべきニーベルングの指輪がヒトラーとともに行方をくらましたという衝撃の事実だった。指輪は使用者への信仰を元に稼働し、あらゆる魔術を無効化する驚異的な力を秘めているそうだ。そして真なるイデアに近付くもっとも有効な手段でもあるのだという。死期を悟ったハインリヒは、ヨハンに真なるイデアの創造を託す。泣き崩れるヨハンに、人間死してなおイデアは不滅であると語りかけ、偉大なるオーストリアの老魔術師ハインリヒ・イザークは静かに息を引き取った。その後旧知のツテを辿り、MI6主導の討伐隊の情報を掴んだ２人は、ヒトラー討伐隊に合流することとなった。

■追撃作戦
　こうして５人は、５年の歳月を超えてイギリスのロンドンで再会した。MI6長官の情報によると、ヒトラーが逃亡した先は南極、アフリカ、南米の三大陸と予測される。アリシア隊は南極を探索することになり、他の２地域はMI6エージェントのオクトーバーなど他の部隊が当たることになった。極寒の南極対策として一行に与えられたのは、潜水艇、雪上車、防寒具。そして運転手役としていつもの謎の中国人女性、フェブラリーが同行することになった。一同は彼女を怪しんだが、長官の命では是非もない。
＃長官はサイコロを振らない。過去２回の事件で、アリシアから協力者と報告されているので長官としては問題ない。難易度30は高いけど、なんで調査しなかったのか・・・、GMの疑問。

■南極イベントチャートは再利用でした
　オーストラリアまで英海軍の軍艦で移動し、そこからはフェブラリーが操縦する潜水艦に乗って、南極大陸に向かった。南極大陸は想像を絶するブリザードが吹き荒れる極限の環境であった。恐るべき寒波が一行の体力を奪い、注意力を削っていく。食料を失いかけるというトラブルを乗り越え、彼らはドイツ基地と思わしき建造物を発見した。果たしてそこに待っていたのは、ヒトラーその人と親衛隊長ハンス、ヒトラーの影武者と思しき者たち、その後ろに付き従う、微動だにしない無数の人影であった。狂気に囚われた目で５人を睥睨する邪悪な独裁者と、かばうように常軌を逸した巨大な盾を構える青年。フラウの悲痛な叫びもハンスにはもはや届かない。猛烈な吹雪の中、決戦の火蓋が切って落とされた。

＄クライマックス
■ジークハイルの脅威
　圧倒的なハンスの防御力と、氷河を砕くような大音声で叱咤する総統の前に、未だかつてない苦戦を続ける５人。しかしフラウとテクノイオンの支援を受けた御子柴とアリシアが、ついにハンスの堅牢な守りを突破した。振り下ろされる拳が、ハンスの延髄を砕き、真っ白な雪の大地を染めていく。唯一の信頼できる部下を失ったヒトラーには、もはや指輪の力は与えられない。苦戦の中でロイスを失い狂気に飲まれるヨハンの重力魔術に抗する術もなく、木っ端微塵に頭を砕かれ、ドイツの不世出の天才にして狂気の独裁者ヒトラーは死んだ。

■如月の名のもとに
　戦いが終わり、誰もが地面にくずおれたそのとき、ずっと隠密状態だった者が姿を表した。その者は誰あろうフェブラリー。いつもの陽気なおふざけと同じ調子で、彼女はニーベルングの指輪を死骸から抜き取った。その細められた瞳には、理性も狂気も映っていない。立ち上がることもできない５人に一瞥をくれると、彼女は静かにこう語った。「喜べ。私たちが人類の革新を成し遂げてやる」と。

＄エンディング
■超人兵士の悲劇
　超人としての回復力は、彼らに安穏な死を許しはしなかった。まずアリシアと御子柴が行動可能になった。戦場には、まだ傷の癒えないヨハンとテクノイオンが転がっている。ハンスやヒトラーの死体は見つからない……少女フラウの姿も。ほどなく２人も目を覚ました。４人はフラウの姿を探し求めたが、ついに発見することはできなかった。

　フラウは、彼らが去ってすぐに目を覚ました。吹きつける雪が彼女の華奢な体を覆い隠していた。疲れきった４人の目には見つからなかったのだ。兄ハンスにはもはや息がなかった。しかし、フラウの瞳は無表情に揺れもしない。フラウはふらふらと立ち上がると、かつて兄だったモノを丁重に抱え上げた。ドイツ軍基地に侵入したフラウ。ごぽごぼと泡を立てながら不気味な光を放出する液体と、そのなかに収まった人間の臓器が彼女を出迎える。彼女は最下層にある調整槽に到達すると、その死骸を禍々しい緑色の液体にゆっくりと沈めた。ふと、彼を再生するためのパーツが足りないことに気付く。「兄さん、助けてあげるからね」哄笑をあげながら、フラウは調整槽へと飛び込んだ。【フラウ、ジャーム化】

■次世代超人への希望
　４人はイギリスに無事帰投した。オクトーバーが通信不能に陥ったアリシア隊の救援に回っていたのが幸いした。それぞれには秘密裏に栄誉が授けられた。もっとも表立った功績は、もちろん与えられなかったのだが。アリシアは、任務を完遂することはできなかった。責任を感じた彼女は、第一線を退く覚悟を固めた。教官として後進の教育に熱意を注ぐ生活が始まる。フェブラリーの邪悪を打ち滅ぼすのは、彼女の技術を受け継ぐ弟子たちなのだ。【アリシア、生還】

■玉音放送の日
　御子柴が日本に帰りついたのは8月15日だった。しんと静まり返った空港に、平板で不明瞭なラジオの声が響く。御子柴が内容を把握するには、最初の十秒で十分だった。彼の仕事は、これから忙しくなりそうだった。【御子柴文彦、生還】

■闘争はまだ終わらない
　ヨハンの懐には、一冊の本。「我が闘争」。彼は脱出の寸前、独裁者の亡骸のコートから飛び出していたこの本を手にとった。凍土に熱狂と興奮をまき散らした独裁者の最期の演説が、彼の脳髄を今も揺さぶる。「最も偉大なゲルマン民族」。彼の呟きは、夏のウィーンに溶けて消えた。【ヨハン・イザーク、ジャーム化】

■そして、ソロモンの指輪はFHの手に
　テクノイオンもまた、狂気に魅入られ始めていた。失いすぎたロイスと記憶は、彼の精神平衡をあっけなく崩した。「人類の革新」―――実に興味をそそられるではないか。香港のホテルの一室で、フェブラリーと再会するテクノイオン。ソロモンの指輪の後継者とニーベルングの指輪を奪った女忍者は、どちらからともなく笑い出した。次なる計画には約50年の準備期間が必要だとフェブラリーは言う。悠久の時を過ごすテクノイオンは、微笑を崩さなかった。【テクノイオン、ジャーム化】

第１部ウィアードエイジ編　完

そして、46年が経過する。我々は、この老人を知っている。いや、悪魔と呼ばれたその超常能力を知っている。

【トレーラー】
R.C.（レネゲイド・センチュリー）3年、西暦変換しますと1991年。この時代の人間にとって、私は時空を超えた存在、いわば宇宙人のようなものです。取材にあたっては、私自身の介在にとって歴史に影響を及ぼす可能性があるため、細心の注意が必要です。取材対象に密着するため特殊な交渉術を用いますが、今回も無事、取材許可を得ることに成功しました。
R.C.199年、レネゲイドに関する歴史秘話を探索するため、タイムスクープ社第一調査部は20世紀末へジャーナリストを派遣した。レネゲイド解放から2年、まだUGNが無かった時代に、人々は脅威にどう立ち向かったのだろうか。
『ダブルクロス The 3rd Edition』「Relic Quest W」第４話「時をかける少女」
ダブルクロスーそれは裏切りを意味する言葉。