セッションレポート「スリーピング・ビューティー（Sleeping Beauty）」

【序】
聖歴662年12月、東の空に星が流れた。
「ローマに帰りたい。」「平穏な生活がしたい。」「吸血鬼の秘密を解明したい。」 「世界が平和でありますように。」さまざまな想いを願う人たち。 しかし、それは流星などではなかった。
そして約３か月後。

【第１幕：地中海、幽霊船クライン】
　汎用特殊業務請負組織いわゆるハンターである「AZ」のチームはバーラエナ号に乗って地中海上にいた。今回の任務は、幽霊船騒ぎの調査である。第一次調査隊全滅の報を受けて、任務を受けたチームは“キャプテン”とともに地中海上にいた。静かな、平和な海だった。やつらが出てこない日中は食事をしてくつろいでられる。AA特製の激甘カレーの香りが甲板上に広がる。

　２日目の夜（月齢10）甲板上で哨戒していたブルーゲイルの夜間望遠視覚が水平線の彼方に揺らめく船影を発見した。それを聞きつけ、チームは早くも甲板上で接近に備えた。ドクター・ラザロは落ち着いて、暗視望遠鏡でブリッジから状況を確認していた。船腹には船名「クライン」とジパング語のカタカナ表記で書かれていた。船首を巡らし、バーラエナ号をクライン号に近づけていくと、AAは接舷するまでに数十ｍの距離を跳躍して偵察に跳び移った。仙道による超跳躍力を使ったのである。外からでは三本マストの帆船に見えたが、内部構造は異なっていた。木製に偽装された扉、重要な場所は電子錠が掛けられていた。

　ラザロ、シズマ、ブルーゲイルの３人が乗り移ってきて合流し調査を続ける。フェルミナは甲板で見張ったままだ。電子錠の暗証番号式を解読して、ラザロは次々に扉を開けていく。まずブリッジでは航法コンピュータを確認し、自動巡航モードになっていることが分かった。コンピュータのデータを調べていく内に、船籍：日本、神戸、建造年：約1000年前、おそらく大災厄前、最後の出航記録は大災厄直後ころ、設計者：ドクター・ウォンといった事実を明らかにしていった。積み荷に関する調査は高度なセキュリティに阻まれたが、暗号名「スリーピングビューティー」と「封印」「抗体」という単語を見つけることが出来た。さすがに場数を踏んだハンターだけあって、ラザロの調査には漏れがない。

　次は船室だ。そこには冷凍睡眠の棺とクローゼットが備え付けてあった。衣服の匂いまで丹念にチェックし、1000年前の衣裳にしてはほとんど痛んでいない点に気付く。ほかに探索すると貴金属類と、奇妙な印の刻まれた碧色の宝石のはまったペンダントを見つけた。宝石の台座の裏側にはMinaと彫られていた。これが名前であろうか。棺はタッチパネル方式で開けられなかった。３番目の部屋、動力室には樽状の炉心があったが、核反応炉でもなく原理不明のままだった。ただ「GS」の文字が書いてあった。

　探索を始めて1,2時間後、一人で見張っていたフェルミナは砲撃音を耳にした。レーダーに映らない、クライン号が死角になる方角から海賊船が迫っていた。レーダーが効かなかったのはクライン号の空間干渉能力による歪みのせいもあったろうか。フェルミナが急を知らせたため、一行は棺と貴金属類を運び出してバーラエナ号に移す作業に取りかかった。その中で一人先行して海賊船へ疾走する姿があった。波紋による反発力を利用して水上を歩くAAだ。射線を避け弧を描くように海上を駆けていく。そのとき、AAとすれ違って海賊船から飛翔する三つの影。重機関銃を抱えた飛行蝙隊。ようやく棺を運びおえたバーラエナ号では、いちはやく敵を視認したブルーゲイルが戦術思考を迎撃モードに書き換えていた。彼の機関拳銃が戦闘開始を告げた。

　空中の敵に三連射。正確な射撃で小隊長（ロタール男爵）の重機関銃をはじき落とす。その反撃で斉射する飛行蝙隊二体の銃撃がシズマとブルーゲイルを襲う。敵に接近しなくては真価を発揮できないサムライ、シズマは無念のまま倒れた。彼の血が棺に降り注いでいく。ブルーゲイルは損耗度60％の深手を負ったが戦闘続行可能。そして吸血鬼の小隊長は加速して棺のそばに降り立った。攻撃よりも棺の確保が“敵”の目的のようだった。だが、ここに伏兵がいた。先祖伝来のフリントロック銃を構えたラザロの一撃が小隊長を吹き飛ばした。恐るべき威力に戦慄が走った。残った二体もフェルミナの火炎放射とブルーゲイルの銃撃に一体が倒れ、一体は逃亡していった。「ロタール男爵の仇は取る」とか言い残して。そのころ、AAは海賊船甲板上の船員たちをあしらいながら、砲弾の直撃を亜空間バリアーで防ぐクライン号を目撃していた。そしてクライン号は亜空間に姿を消した。甲板の戦闘が終わる頃、バーラエナ号は方向転換を終えて船首衝角で海賊船を海の藻屑にした。

　戦闘終了後、船室ではラザロによってシズマの緊急オペが行われ、なんとか一命をとりとめることが出来た。しかし、なぜシズマの血に濡れたことにより棺の蓋が開いてしまったのだろう。発見された眠れる美女は、眠っているだけで健康状態に異常はなかった。ボスへの簡易報告を済ませ、バーラエナ号はシシリア島へと向かった。美女の正体、“敵”の目的、全ては闇の中だった。

【幕間】
手負いの蝙蝠が飛んでいく、否、あれは人だろうか。その飛行生物は海中から出現した潜水艦に着艦した。長髪の男が出迎える。
「任務ご苦労。と言いたいところだが、その様子では失敗のようだな。」
「お許しを。敵の中にあのガンスリンガーが混じっているとは思いも寄らぬ誤算で。」
「否定。教皇庁のイヌが出張っているという情報はない。おおかた同型機のスクラップがまだ残っていたのだろう。」
「ロタール男爵様までも悲弾に倒れられ、せめて復讐の許可を。」
「まあ良い。お前達は大事な実験体だ、焦るな。傷を癒し、レッドバロンと合流して待機しておけ。私が網を張っておく。」