第２話「復讐鬼は闇に笑う」

『ジャナストラ冒険ガイド』にはこうある。
鉱山町カーマインは湾岸都市ウィスタリアの西方向、徒歩２日の場所に位置する。特殊武器の作成に欠かせない金属エリハルコンを産出する。町の実質上の支配者は、商都ケラススの商人である鉱山主ウェイト氏。半年前に鉱夫をほとんど入れ替えるなど、不穏な噂が絶えない。古株の鉱夫からは、20年前に死去した前の鉱山主オーガスト氏を懐かしむ声も聞く。

■オープニング04「悪夢」：封印の破壊者、ガント
まだ幼き日、ガントは商人オーガストの息子として両親の愛情たっぷりに育てられ、幸せだった。ハロウィンに似た仮装祭りの夕方、親の留守中に道化師がやって来る。道化師はビックリナイフを渡して、これで脅かしてごらんと唆す。その言葉通りに帰宅した父親を脅かすと、ビックリナイフだったはずの刃は本物。悔しそうな顔をしながら、力つきる父親。「よくやったガント」と道化師の笑い声が響く。
　ところ変わって、暗き地の底、何か大いなる存在が眠れる前で、青年ガントが何らかの儀式を行っている。封印は解放された・・・。と思うと、夢だった。目が覚めると、事件の報告を聞いて仕事の準備を始める。悪夢なのか予知夢なのか・・・。

探し屋チャーリーの異変を聞いて、テツ、ゾルム、ティールにガントを加えた４人が鉱山町カーマインへ向かうことになった。以下は、ゾルムの回想録よりの抜粋である。（＃印はゲームマスターによる付記）

■鉱山都市へ
　村祭りの成功を見届けてウィスタリアに帰ってきた俺たちの前に、別の仕事（少年の父親探索）をしていたはずの「助け人」の同僚、ディックが突然現れ、そして死んだ。ディックの死体を運び込んだペローマ神殿でチームの一員であるペローマ高司祭ガント（前回は研究等で忙しく、村には行かなかった）とも合流し、俺たちは馬車を借りてディック達のチーム「探し屋チャーリー」が少年の父親を探しに行った鉱山都市カーマインに向かった。この段階で判明している事実は以下の通り。

・「過去視覚」の呪文によると、ディックはまるでアルリアナ信者やウィザードの使うテレポート呪文のように忽然とウィスタリアに現れている。
・ディックの死因は麻痺性の毒である。この毒はペローマ神殿でも未知の物だった。

　ともかく、どうやら危機にある同僚を見捨てるわけにはいかない。特に「探し屋チャーリー」のメンバーには俺やテツがウィスタリアに流れ着き、言語の問題で苦しめられた時に世話になったサリカ神官のバルバラさんもいる。馬車は、夜を徹してカーマインへと急いだ（俺たちはその中で御者を交代しつつ睡眠をとった）。

■１日目：厳戒態勢
　急いだ甲斐もあり、翌日の夜にはカーマインに到着した。が、門にはガヤン信者が立っており、何やら警戒態勢である。聞くと、鉱山の持ち主である商人ウェイトが殺されたらしい。そして、たまたまカーマインに立ち寄っていたガヤン高司祭が捜査の指揮を取っている、とのこと。
　こんな時期、夜に急いで街に入ろうとしたため、俺たちも大分疑われた。ウィスタリアの「助け人」である事を示すとどうにか街に入る事ができた。この場だけに限らないが、特に例の高司祭に率いられたガヤン信者達は悪い意味で官僚的な対応が目立ち、ガヤンの悪い部分が出ているとの印象を受けた。

　さて、俺たちも急ぎの用事である。宿をとったら（無論、食事は俺が作る事を宿の主人には了承させた。宿代も浮くし、満足のいく食事も取れる。一石二鳥だ）、即座にディックの足取りを追い始めた。

　調査の過程で、外来のガヤン高司祭ともすれちがった。どうやら、彼はガントの関係者であるらしい。何でも、昔ガントの父親が殺された時の事件で犯人を逮捕したのが、当時駆け出しであった彼、現在の高司祭ケネスであるらしい。ただ、当時から彼の強引な捜査手法には問題も多かった（予断により、「犯人」を作り上げてしまう傾向があった）らしいが。

　また、現在のガントの師匠に当たるペローマ高司祭アイザックとも出会った。彼は俺たちにも協力的で、主にアイザックを介して現在このカーマインで何が起きているのかを知ることができた。

　この日の調査では、以下のような事がわかった。
・ウェイト殺害に、ディックを殺したのと同様の毒が使われている。
・既に、ウェイト以外にも同一の手口で鉱山関係者（鉱夫長等）が殺されている。
・ディックは確かにガヤン神殿に顔を出しているが、以後の足取りは不明。

　このあたりで、夜も遅いので残りの調査は一晩寝てからということとした。

■２日目：状況判明
　翌朝から俺たちは調査を再開した。サリカ神殿にはバルバラさんが確かに立ち寄っており、ディックがウィスタリアに現れた日に、何か手掛かりを得たような事を言っていたのを最後に消息を絶っていた。続いて、「探し屋チャーリー」が行ったであろう調査をトレースして鉱夫たちへの聞き込みを行おうとした所で状況が動く。「探し屋チャーリー」のメンバーの一人、タマット信者のテッドが今回の事件の犯人として捕まったというのだ。ガヤン神殿へ行って見るとテッドは心神喪失状態で、彼の供述は要領を得ない。ともかく、どうやら彼らが危ない橋を渡った（そして、その試みは失敗した）らしい事と、彼らと共に父親を探していたはずの少年の名前を出すと酷く怯えだす事位はわかった。

　以後も調査を継続し、以下のような成果が出た。
・鉱山には隠し坑道があり、少年の父親（キートンという名前であると判明。家族を養うため、大金を欲していた）は一攫千金を求めてそこへ向かったらしい。
・現在の鉱山主であったウェイトは、どうやら利益を追求する余り、鉱夫たちにとっては余り良い雇い主ではなかった様子。
・「探し屋チャーリー」の一員、アルリアナ信者のレイチェルがやはり心神喪失状態でア ルリアナ神殿に保護されていた。
・レイチェルはシェイパー帝国の逃亡奴隷であるらしい（焼印が発見された）。

　この程度の情報が集まった時点で、アルリアナ神殿で前回遭遇したチェイサー達と再び出会った。彼らは俺たちの知らない呪文を用いてレイチェルの正気をすぐさま回復させ、その結果俺たちも労せずしてレイチェルの口から「探し屋チャーリー」がどうなったのかを知る事ができた。

＃俺たちの知らない呪文とはルールブックにない呪文、「Role&Roll」で追加された高司祭共通呪文「狂気回復」です。仲間たちが習得していないだけで、特に怪しい呪文ではありません。

　彼女の話はまだ今ひとつ要領を得なかったが、レイチェルの話を総合するとどうやら彼らは坑道の奥で悪魔と遭遇したらしい。で、少年とバルバラさんの消息は不明。悪魔と聞いては黙っているわけにはいかない。奴等は全ての＜源人の子ら＞の敵だ。チェイサー達にも前回の諍いは一旦忘れて協力をとりつけ、俺たちは隠し坑道の奥へと向かった。

■異貌の神との遭遇
　隠し坑道の奥には、半分「多足のもの」に変化したような姿のキートンと、少年、そしてバルバラさんがいた。キートンは一攫千金を狙ってここに入ったのは良いが、その奥に眠る銀の神を見てしまってこのような姿になってしまったとの事。それは良いのだが、少年の方がこの状況を知ってショックを受けたらしく、悪魔に憑かれてしまったのが問題である。どうやら少年はキートンがこの隠し坑道に入った原因をウェイトら鉱山経営者の横暴に求めているらしく、ここ数日の連続殺人事件は彼の起こしたものであった。また、「探し屋チャーリー」を壊滅させたのも、同じくこの少年であるらしい。

　それは逆恨みだと思うが、まあ悪魔憑きと冷静に会話する事などそもそも不可能である。状況から察するに、バルバラさんは半ば正気を失った少年と粘り強く会話を続け、彼を落ち着かせる事で被害の拡大を防ごうとしていたらしい。自分の身もかなり危険だろうに、流石だ。実に交流の神サリカの信者らしい戦い方である。ともかく、俺たちが来たからにはもう我慢している必要は無い。丁度この時点でレイチェルを伴ってガヤン信者たちも追いついてきた（別口の捜査からここを割り出した模様）事だし、この悪魔を切ってしまおう。

＃ゾルムは記録していないが、ガヤン神殿との協力捜査のためケネス高司祭の部下が一人同行していた。坑道へ向かう前に別れて、神殿へ報告に戻った。優秀な捜査官である彼は、一切合切を上司に報告したのである。重要な証人をケネス高司祭が見逃すはずがない。レイチェルに案内させて、彼らも坑道に辿り着いたのだった。GMの思惑としては、これから起きる儀式のための犠牲者として名もなき捜査官たちが必要だった。

　悪魔は３体に分裂したり、両手の鋏を使って俺たちの鎧を破壊してきたりした。「探し屋チャーリー」を壊滅させただけあって、なかなか手ごわかったが、結局戦闘は俺たちの勝利に終わった。
　しかし、戦闘後にガヤン信者たちに同行していたアイザックが怪しい動きを見せる。ガントに怪しげな銀色に光る棒状の物を渡したかと思うと、ガントが突然よく分からない呪文を唱えだしたのだ。そして、坑道全体がぐらぐらと揺れ始める。どうやら、この奥に眠っている銀の神が目覚めようとしているらしい。ガントはあの銀色の棒に操られたような感じだった。その後アイザックは得意満面で現在の状況が銀の神を目覚めさせるための儀式であると語り、ガントに魔導書を渡してどこかへと消えた。

＃操られたというよりも、本性を解放させたという方が正しい。封印の破壊者の運命に従い、為すべきことをしたまで。アイザックはガントを導いただけである。まあ、その前に召喚した魔物を使ってガヤン信者たちを闇討ちにしているのだが。

　一方、戦闘終了後に流れ弾で負傷していたバルバラさんを庇いに行ったティールだったが、何を思ったか持っていた剣で彼女を切り殺してしまった。本人の言葉を信じるなら、剣が血を欲したらしい。何て剣を持っているんだ。只者では無いと思っていたが・・・。

＃流れ弾というのは、テツがファンブルして最悪の方向へ投げてしまった斧である。特徴「悪しき運命」だけでは死に至ることはないのだが、魔剣との組み合わせが最悪の結果を招いてしまった。

　ともかく、俺たちも脱出しないとまずい。が、既に道は崩れている。ここで、ガヤン信者に同行していたレイチェルが突然語りだす。「自分はシェイパーの改造人間実験体であり、自分の能力であなた達を逃がす事ができる」との事である。そして、彼女の胸に埋め込まれていた「次なる色彩」が輝きを放ったかと思うと、俺たちは坑道の奥からテレポートしていた。なるほど、ディックを逃がしたのもこの力か。

　そして、俺たちはよくわからない場所に飛ばされていた。どうやら、あの坑道よりもさらに深い地の底であるらしい。目の前には良くわからない輝く球体の集合のようなモノがいる。本能的に、これがあの坑道に眠っていたのよりもさらに格上の銀の神であるとわかった。それと同時に、異次元の存在である銀の神を認識する事に耐えられなくなって俺たちは再び意識を失った。視界がブラックアウトする直前に、例の球体が一際明るく輝いたのが見えた。どうやら、俺たちはまた別のどこかへと飛ばされたらしい・・・。

＃坑道よりも深い地の底、そこがどこか、ディックが何故ウィスタリアに現れたのか、それは第６話で明らかになる。

■補足情報：鉱山の秘密
ゾルムは「少年の逆恨み」だと考えていたようだが、実際には深い秘密があった。

『ジャナストラ冒険ガイド』にはこうある。
鉱山町カーマインに隠された秘密。それは封印された銀月の異貌の神の存在。20数年前、一介の冒険者だったオーガストは仲間と共に遺跡を発見した。未探索の遺跡で赤児を拾い、その赤児に導かれるようにエリハルコン鉱山を発見していった。遺跡と鉱山をつなぐ通路を物理的に封鎖し、鉱山経営者として財をなした。だが、不慮の死により、鉱山は別の者に譲られた。それから約20年間、新たに鉱山の秘密に触れる者はいなかった。

　隠し通路が再発見されたのは半年前。鉱夫の一人が異貌の神に出会って犠牲になった。鉱山主は調査隊などが入ることを嫌い、関係者を口止めして解雇した。何よりも目先の利益、鉱山経営を優先したのだ。このとき正式調査されていれば、通路を確実に封じていれば、キートンの悲劇は未然に防げたかもしれない。「探し屋チャーリー」は事故の背後関係から、鉱山主が関与した証拠まで全てを調べ上げて少年に報告した。つまり、復讐鬼は彼ら自身で生み出してしまったとも言える。

【次回予告】
オータム監督は悪夢に怯えていた。並行世界の自分が、まさかの４連敗。世界の覇権を賭けた紫光杯「星球（アストロボール）」決勝トーナメントを勝ちたいんや。しかし、準決勝まで勝ち抜いて、チームの選手は満身創痍。悪夢と同様の敗北を恐れ、勝つために、伝説の「助っ人」と再会した。そして、魔術師スターフィールドは仙術を使って助け人を召喚した。
次回、ガープス・ユエル・キャンペーン第３話「夢をあきらめないで」に、プレイボール！
　　これが勝利の鍵だ　＜球形の烙印を持つ選手＞

第３話「夢をあきらめないで」