第６話「戦士たちの帰還」

『ジャナストラ冒険ガイド』にはこうある。
料理都市モーリタスは、元の名を湾岸都市ウィスタリアという。銀の月の怪物との戦いで疲弊していたとき、リアド大陸の「鬼面杯」を三連覇して渡ってきた料理人が、途中、「次なる色彩」の助力を得て、退治したマハノチを曳航して街を救ってから改名された。さらには“味キング”フィリップ・モーリタス主催による料理大会が開催され、新たな優勝者ゾルムに市長の座が譲られた。今は、ゾルムシティと呼ばれている。

■強敵との再会
ルナル世界へ帰って来たゾルムたちは、ひとまずオクトバの町へ落ち着いた。3年前の混乱時に難民を受け入れて、人口が増えたらしい。料理都市モーリタスから移民していた「山海の恵み」亭の店員ミパたちもいた。3年前（異世界を移動したテツたち４人には、つい先日のこと）に鉱山町カーマインで銀月の異貌の神が復活したとき、ガントの行った儀式を目撃したガヤン高司祭ケネスたちは生き残っていたらしく、実行者ガントと共犯アイザックは指名手配されていた。

まずは銀の門／マスターゲートを閉じるための情報収集の必要がある。料理都市モーリタスの様子を見に行くことになった。逮捕される危険を恐れて、指名手配されているガントは「シャストアの面」を借り、トンガと名乗ることにする。出掛ける直前に、日本から来た７人のうち４人が「こちらの世界でうまくやる」と置き手紙を残して行方をくらましたとの報告を聞く。だが、それに関しては滝三郎隊長がなんとかするということになった。

料理都市モーリタスに着いたゾルムは、旧知の料理人キョウカと出会い、年始の祭りで開催される料理大会の情報を得た。元市長ドルーク（今は料理評論家）を探して訪ねたり、ペローマ神殿へ行って神殿長から話を聞いたりして必要な情報を集めていった。その結果、湾岸都市ウィスタリア（料理都市モーリタス）の地下に遺跡があり、その迷宮の奥に銀月の異貌の神が封じられていることを知った。地下迷宮の入り口は市庁舎の地下二階にあり、入るためには市長の許可、二枚の円板と一つの鍵が必要とのこと。ペローマ神殿長イバラード氏に円板探しを任せて、ゾルムたちは市長に会うことにした。だが、モーリタスの市長に論理的説得は通じなかった。事情を話したうえで協力を依頼するが、偏屈で頑固な料理人らしく、一見の者を信用しない。「信用に値する人物かどうか、料理勝負だ！　来月の料理大会で勝ったら許可しよう」と言う。強敵との再戦に向けて、ゾルムの闘志が燃え上がる。

鉱山町カーマインの廃墟の確認調査、屋台での料理修行、マハノチ狩りなど料理勝負へ向けて準備を進めて行く。その間、「山海の恵み」亭の店員ミパはお守りを手渡したり、独自のコネで漁船の船長を紹介したり、密かに船に乗り込んで特殊能力でマハノチ狩りに協力したりと、ゾルムとの仲を深めて行く。当初は「想い人がいるなら応援しよう」と堅物ぶりを発揮していたが、ティールたちの支援もあって、ミパの想いがゾルムに通じた。

■味勝負、愛の勝利！
そして一カ月後。年始祭りに併催した料理大会が始まった。ゾルムは一次予選「味覚判定」二次予選「包丁さばき」を難なくクリアし本戦へと進む。一回戦は８人の挑戦者から3人だけが勝ち残る、オムレツ勝負だった。これも持ち前のテクニックで勝ち進む。そして、準決勝は素材・技術・演出が問われる「魚料理」という広義テーマ勝負だ。シャストア神官ティールの語りが効果的に盛り上げ、「今日だけはお前のために、愛を込めて料理を作る」と健気な助手ミパへの愛情を込めた料理が他者を圧倒する。

ついに、決勝進出。最後の戦いは、完全な自由品目だ。モーリタスが「鬼面杯を三連覇して、ライバルはいなかった。あのときの引き分けの決着を今つける」と火花を散らす。“味キング”モーリタスが10年前の因縁の料理、羊の炙り焼きを出したのに対し、ゾルムは異世界で覚えた技術と、この日のために狩った水竜マハノチによるマハノチ寿司で勝負！　ほぼ互角の腕、モーリタス若干有利な判定だったが、審査員の一人アキジは、故郷の味を思い出したかのように感動に涙を流す。モーリタスは「俺にも喰わせろ」と寿司を口にし、「俺のマハノチ料理にはなかった工夫が見られる。俺の負けだ」と敗北宣言してしまった。審査委員も後追いで、ゾルム勝利という評価結果を出す。モーリタスは市長の座も勝者ゾルムに譲り渡した。そして、モーリタスから「次なる色彩」が離れ、天へ帰って行った。新市長ゾルムは「四年に一回、料理大会を開催し、勝ったものを市長とする」と宣言した。

■試練の地下迷宮
大会が終了し、勝利の余韻に浸っている頃、ペローマ神殿長より地下迷宮へ入るための円板が揃ったと報告があった。勝利の余韻も醒めやらぬままに、地下迷宮へ突入する。どうやら入るためには何らかの資格が必要らしく、ゾルム、テツ、ガント、ティールの４人だけで行くことになった。入口を抜けてしばらく進むと、落とし穴（シュート）で地下深くへ落とされた。まずは四つの扉ある部屋。扉を抜けると、テレポータで飛ばされ、部屋で待ち受ける試練を一つずつクリアしていく。
ゾルムの活躍で「言葉」「知恵」「環境」「思い出」の４つの試練を突破し、６番目の試練は「影との戦い」だった。テツ、ガント、ゾルムの3人の影に加えて、ティールの魔剣から現れた騎士ベレンの影と戦う。蟻人間の姿を取り戻したベレンに苦戦するが、4人の連携で4つの影を倒した。影との戦いで勝利の鍵となったのはテツだった。「次なる色彩」の力を借りなくてもクリティカルヒットを連発し、本当に強くなった。地球との縁を切って、何かが変わったようだった。

　最後の部屋「マスターゲートの間」では、門の奥から異貌の神が見え隠れしていた。さすがにゾルムは気絶してしまうが、他の3人はしばらくして朦朧状態から回復した。ガントが呪文を詠唱して神を退散させ、門に「旧き印」の封印を施した。任務は完了した。だが、この部屋には出口はない。7つの試練待つ迷宮、7番目の試練とは脱出方法だったのだ。いったん休んで考えをまとめた後、テツは秘密裏に所持していた宝物を取り出す。異世界で入手した、かぐや姫の秘宝「蓬莱の珠の枝」であった。「俺たち４人で地上に戻りたい」との願いがとどき、彼らは転送された。また変な場所に飛ぶ可能性もあったが、地球との縁を断ち切っていたため、そのまま地上へ。助け人事務所の前に出た（どうやらマスターゲートの部屋は事務所の真下にあったらしい）。

■戦士たちの帰還
彼ら４人を送り出した仲間たちは不安のときを待っていた。以前は3年のインターバルがあった。いつ帰ってくるのだろうか。だが、今度は４日で帰って来た。「オカエリナサイ」喜び出迎えるミパ、おやっさん、滝隊長、他の仲間たち。
それから、改めて、ゾルムの市長就任祝いと結婚式が執り行われた。

ガントは、3年前の異貌の神復活事件の実行犯として逮捕された。仲間の弁護により執行猶予がついたが、いずれ刑に服役することになる。けれども、銀の鍵と魔導書の力を捨てない限り、生まれの宿命から逃れられないだろう。
ティールは魔剣を制するための精神修行の旅に出た。道中、ライフル銃を装備した帝国軍の噂を聞くことになるが、それは別の物語にて。
新市長ゾルムは、新妻を連れて一度リアド大陸へ里帰りした。そして、一生涯を料理のために生き、幸せに暮らしましたとさ。
テツは、第二の故郷に生きる決意を固めた・・・。

七つの月しろしめす大地、ジャナストラ大陸北部に位置するカラカヤ連邦。シェイパー帝国との緊張関係、悪魔事件、銀月の爬虫類人間の襲撃、さまざまな事件を解決するために駆けつける神殿間協力事業員、通称「助け人」たちの中に猛虎の斧を振るう一人の日本人の姿があった。「悪しき運命」を解決した今、もはや他人を不幸に巻き込むことはない。
「俺の名はテツ。職業は人助け。何があっても俺が守る。もう誰も不幸にしない」

『ガープス・ユエル』キャンペーン「Visitant G 4　〜月彩の来訪者〜」編　完