第４話「混沌の来訪者」

『ジャナストラ冒険ガイド』にはこうある。
地球、データなし。

元戦場カメラマン、牧村徹平の日記より。

■京都上空
　目の前の戦闘機からなされた警告。それが日本語であると気づいたとき、俺は、地球へ帰ってきたのだと確信した。ドラゴンに乗ったとき、つい家族のことを思い浮かべてしまったのがいけなかったのだろうか？

　何はともあれ、無用な争いを避けるために、俺達は彼らの指示に従って山の中の施設へと向かった。そこで俺達は、体育館ほどの広さの部屋に通された。彼らは応接室と言ったが……とてもそうとは思えない。部屋の中には、椅子一つ見当たらず、壁には窓すら取り付けられていない。正体不明の連中が突然空に現れれば仕方が無いか、などと俺は思ったのだが、皆はそう思わなかったようだ。不信感を募らせる中、二人の人間が部屋に入ってきた。一人は、ウィスタリアの助け人の元締め、アキジのおやっさんに似ている中年の男。そしてもう一人は・・・、バルバラさんに似た女だった。

　彼らは自分達を「外務省領事移住部外国人課京都迎賓館分室」の人間だと名乗り、俺達が日本に来た目的を尋ねた。どうも俺が知らなかっただけで日本にはこれまでも何度か宇宙人が到来しており、俺達もそのように扱われていたらしい。この施設も宇宙人への対応のために特別に造られたものらしい。「観光」だの「ビジネス」だのという言葉を聞かされるとなんともいえない微妙な気持ちになったが、きちんと申請して書類にサインしたら正式な訪問者として扱われるという話だったので、俺は皆をなだめすかして「観光」のビザを取得することにした。（皆は部屋に閉じ込められた形になったこと、そして、彼らに俺達の乗っていたドラゴンを逃がしてしまったと聞かされたことで、彼らをかなり疑っていた。ティールなど書類に偽名を書いたほどだった）後に、どうしても竜斬り包丁を持ち歩きたいゾルムは「ビジネス」のビザに切り替えた。

　その後、俺達は滞在場所としてホテルをあてがわれた。ルナルとの風習の違い（特に問題になったのは銃刀法の存在だ）で色々悶着を起こしつつ、皆はとりあえずせっかく訪れた異世界を楽しむことに決めた。新聞を見てみると、俺がこの世界から消えてから、既に３年が経過していた。

＃宇宙人にとって最も注意すべきなのは未知のウィルスですね。ルナル世界には「防疫」という概念がないので、誤解の原因となったようです。テツが消えてから３年が経過していることもポイントです。本人の体感では２年しか経過していません。ウラシマ現象が起きている伏線でした。

■再会、妹よ
　次の日、俺に面会者が現れた。妹の麗子だ。始めは半信半疑であったが、話をしている俺が本人であると信じてくれた。俺がいなくなっていた間の話を聞いたところ、俺はやはり３年前にガモン共和国（俺が戦場カメラマンとして活動していたアジアの小国だ）で死んでいることになっていたことや、麗子自身は洛北大学の学生となり（兄貴と同じで麗子は昔から出来が良かった）、「オカルト研究会」（よりにもよってそんなサークルに……）に所属していること、更にはそのサークルを挙げて、俺の高校のクラスメイトの（といっても、俺は覚えていなかったのだが）花村という人物が代表者をしている「エコライフ研究所」という団体を調べているということを教えてくれた。

　３日目に、今度はガントに面会者が現れた。この世界にガントの知り合いがいようはずが無い。名前を聞いてみると、「相沢」と名乗っているらしい。とりあえず警戒してゾルムがついていくことになったが、果たして面会者はガントの師匠であったアイザックだったそうだ。彼は銀の月の神を目覚めさせたことについては、あれはガントの使命であって手助けをしたに過ぎない、といって気にする風も無かったらしい。彼はエコライフ研究所の人間としてこの世界でそれなりの地位を持っており、新しい知識の吸収に努めていて、ガントに研究の協力をもちかけた。また、その話の返事とは関係なく、俺達に行動の便宜を図ると言い出したそうだ。行動に窮屈なものを感じていたので、その申し出は受けることとなった。

　その間、俺とティールはパソコンで調べ物をしていた。俺はガモン共和国のことが気になって調べてみたかっただけなのだが、ついでに調べてみたところ、エコライフ研究所が何か浄水装置のようなものを開発していること、更に「真実の光」教団という新興宗教と結びついていることがわかった。また、ほんの興味本位で調べてみた『銀河聖戦士ブレイド７』という映画の内容が、所々ルナル世界と妙に符合していることがわかった。その協賛団体の中にはエコライフ研究所も存在していた。

※滞在中に見た予告CMと公式ホームページより得た情報
【特報】
人気TVドラマシリーズ『銀河聖戦士ブレイド７』映画化。女剣士ナギの故郷カルシファード星を解放してから一年。クールな傭兵、ウイング族の若者レンを主人公にし、その過去が語られる。汎銀河帝国に対する復讐の怨念、そして騎士ベレンとの因縁の対決。 敵か味方か、図書館星セラエノから来た美女。７人の仲間がスクリーン狭しと暴れまくるZe。もちろん、謎の黒騎士ナイ様も活躍する。
『銀河聖戦士ブレイド７　ウイングの復讐』公開間近！

そして、沖縄出身の実力派女性アーティストが歌う主題歌シングル『昴の星へ願いをかけて』が映画に先駆けて発売される。TV版とは異なるアレンジ、さらに新たに銀河語によるラップが加わった。ラップ部分も覚えてコンサートでは一緒に歌おう。C/Wの挿入歌「教えてアル＝アジフ」も注目。

■爬虫人類の襲撃
　４日目。エコライフ研究所から使いが来た。俺達の身柄を引き取りに来たのだ。研究所の施設に向かう途中の山道で、俺達はルナルのトカゲ人と、炎の元素獣アグニに襲われた。俺がルナル世界に飛んでから現れるようになったらしい。何とか撃退したものの、俺は自分の住んでいた世界の未知の部分や、変わってしまった部分に衝撃を受けた。エコライフ研究所の施設についた後、”聖母”シャクティーと名乗る花村リンと会うことになった。彼女はなんと魔法を用いて俺達の傷を癒してくれた。ホームページにも書いてあった奇跡の力だと彼らは言った。彼女は俺に会いたかったと言ったが、やはり俺は彼女のことを知らない。そのことを正直に言うと、彼女は気を失って倒れてしまった。

　後で麗子に聞いて知ったことだが、彼女は自分の恋人（俺のことらしい）が戦地で死んだことを知り悲しんでいたが、２年前に夢の中で、死んだのではなくどこか別の世界で人助けをしながら生きているのだというインスピレーションを得て、恋人の帰りを待つために教団を立ち上げたそうだ。ちなみに、俺の恋人は別にいた。少々思い込みの激しい子だったようだ。

■教団の秘密を探索する者たち
　５日目。更に驚くことがあった。教団員の中に俺の恋人であったさやかがいたのだ。麗子も最近連絡が取れなくなったと言っていたのだが、彼女はこの教団の潜入調査をしていたそうだ。その後、色々話をしたが……思い出したくは無い。一方、他の仲間たちはなんとあのナスターシャと会っていた。彼女達はこの世界にあるお宝を狙って自分達で世界を超えて来たといい、自分達の宝探しの邪魔をしなければ帰りに俺達を一緒に連れ帰ってくれると約束した。彼女が最初に目をつけた宝は、この教団にあるモノリスに宿る「次なる色彩」だ。

＃恋人との訣別の言葉「君と俺との間には、越えられない境界がある」は、ジェスタ信者らしい名言でした。

　その後、俺は家族に会いに行った。死んだことになっている人間なので、全面的に歓迎されたわけではなかったが、元気そうな家族にもう一度会えて俺はうれしかった。兄貴とのキャッチボールに、わだかまりが解けた気がした。更にその後、俺は麗子とともに洛北大学オカルト研究会の部室に向かった。すぐに京都を離れなければ危険だなどと麗子が言い出したので、詳しい話を聞くためだ。そこで会長の姫野美佐と話をしたところ、明日行われる『銀河聖戦士ブレイド７』のイベントで「真実の光」教団によって邪神復活の儀式が行われるということを教えられた。
　俺は大学生である彼女達と共闘する気にはなれなかったが、その部室に昔から住んでいるというアイリスという名のフェリアから「蓬莱の珠の枝」という「次なる色彩」と同じ力を宿した秘宝をもらった。

＃洛北大学の物語を覚えている者は不幸である。かつて『クトゥルフの呼び声』や『妖魔夜行』など、現代日本モノで使われて来た設定です。さらに、妖精アイリス・ノーブルホワイトが手渡したのは、10年前の妖魔夜行キャンペーンで切り札となった「祈願」の魔力が込められた、かぐや姫の秘宝。その意味するところは、受け継がれし光。

■復讐者のV作戦
　６日目、俺達はナスターシャたちにも声をかけてイベント会場（京都駅大階段の室町小路広場）へと向かった。装備は「ブレイド７」のコスプレということにしてごまかした。イベントは主題歌のコンサートだった。どのように儀式が行われるかわからなかったため、様子を見ていたところ、歌のラップ部分が明らかにカラカヤ語（ジャナストラの言葉だ）の呪文となっていた。会場のファン全員の合唱が始まる。俺達は呪文の詠唱を止めるために動いたが、間に合わなかった。邪神が復活してしまったのだ。俺は会場に訪れていた花村とその右腕である高城の方へ向かったのだが、邪神が現れた後に、高城の姿が変化した。俺も見るのは初めてだったが、高城はルナルの翼人だったのだ。彼はずっと前にこの世界に飛ばされており、その時、この世界の人間によって仲間を全て銃で撃ち殺されたため、その復讐として今回の復活儀式を計画したのだと語った。教団も花村も、彼に利用されていたのだ。俺は、もう自分を殺してもどうにもならない、といって笑う高城をにらみつけることしかできなかった。

　一方、ガントはアイザックから、異界の神が復活したこの機に、他の世界に渡り、共に更なる知識を求めようと誘いを受けたが、この邪神復活計画を知っていながら止めようとしなかった彼に怒りを感じ、拒絶した。

　ナスターシャの周りでは別の異変が起きていた。ナスターシャの肩に止まっていたカブトムシが「次なる色彩」の力によってとナーブと合体／変身していった。彼こそが、ティールがあの魔剣を持つきっかけとなったシェイパー帝国の騎士、ベレンだったのだ。ティールは、突然現れた仇敵に対峙した。騎士ベレンはティールの持つ魔剣は「次なる色彩」固定化の実験の産物だと語り、それを返してもらう、と言った。

　俺達はこれから、どうなるのだろうか？

【次回予告】
君の姿は僕に似ている。見知らぬ世界に一人取り残されて、何をすべきか。一方で、ついに姿を現した帝国の騎士が、魔剣士の前に立ちはだかる。 しかし、障害はそれだけではなかった。病気、異国の法律、テロ対策部隊。
本当に七つの月の大地へ帰還できるのだろうか。 その手がかりを探して、見知らぬ都市を彷徨う。
次回、ガープス・ユエル・キャンペーン第５話「罪と罰　〜魔都に惑う異邦人〜」 月光の煌めきが来訪者を呼ぶ。

あと２回。さあて、どう戦うか。

第５話「罪と罰　〜魔都に惑う異邦人〜」